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SNS時代の企業リスク管理が「経営課題」である理由
──日本マクドナルド元取締役が語る、炎上防止と成長戦略の両立

SNS時代の企業リスク管理が「経営課題」である理由──日本マクドナルド元取締役が語る、炎上防止と成長戦略の両立

SNSの拡散力が企業の命運を左右し、社会通念が日々変化する現代。外食産業においても「炎上」や「風評被害」は、売上やブランドの信用に直結する重大な経営リスクとなった。

日本マクドナルド株式会社で取締役執行役員としてESG・パブリックアフェアーズを統括し、全社リスクマネジメント(ERM)の整備と運営に尽力した宮下氏は、この急激な環境変化にいち早く危機感を抱き、リスク管理体制の再構築を主導した人物である。

本稿では、同氏へのインタビューをもとに、マクドナルドの役員として直面した課題、ネット炎上・風評被害の構造的変化、そして企業が取るべきリスク管理の「あるべき姿」を紐解く。

プロフィール

宮下 建治氏
躍進創美合同会社 代表、元 日本マクドナルド株式会社 取締役執行役員

慶應義塾大学商学部卒業後、P&Gで営業・企画を担当し、多数のカテゴリーで流通戦略と取引制度革新を主導。米国本社勤務を経てBtoBマーケティングとソリューション営業を強化。中華圏営業ディレクター、北東アジア営業統括本部長として事業成長に貢献。日本マクドナルドではCOO、取締役としてオペレーション改革やサステイナビリティーを推進。2023年、躍進創美合同会社を設立し経営・営業戦略を支援している。

取締役として担った役割──「攻めの経営を支える守り」の再構築

宮下氏は、取締役執行役員として大きく4つの領域を管掌していた。中でも最重要と位置づけたのが、企業信用の源泉となるESGと評判リスク管理である。

ESGの高度化でブランド価値を強化

プラスチック削減、リサイクル、サステイナブル調達、食育、社会貢献、再生可能エネルギー導入など、社会課題解決と事業価値を両立する施策を推進した。特に印象的なのは、おもちゃのリサイクルプログラムだ。お客様から回収した古いおもちゃを店舗で使用するトレーに再生する取り組みは、日本独自の施策として始まり、三方良しの成果を生んだ。

「お客様にも喜んでいただけて、社会や環境にも良く、さらに来店動機にもなる。テストしたところ、お客様の喜ぶ顔が見えましたので、継続的に実施したいと考えました」と宮下氏は語る。

外部ステークホルダーとの信頼構築

官庁・団体・学識者・マスコミなど、多様なプレイヤーと対話し、社会的信頼の土台を強化した。これらの対話を通じて、社会の論点を立体的に把握することが、企画の上流でのリスク予見に直結したという。

働き方改革とガバナンス強化

オフィス環境の刷新、リモートワーク、電子ワークフロー導入を主導。同時に、全社的リスクマネジメント(ERM)の構築により、企業信用を守る「守りの基盤」を経営アジェンダとして整備した。

宮下氏が直面した「変化の質」──炎上頻度・拡散速度の激変

宮下氏がもっとも危機感を覚えたのは、「炎上を取り巻く環境の変質」であった。

炎上は数時間で一次・二次へ拡散

「2013年頃から炎上頻度が急増し、数時間で一気に広がる構造へと変化しました」と宮下氏は振り返る。拡散速度はさらに加速し、結果として企業の対応が追いつかない状況が常態化した。

過去の成功パターンが通用しない世界に

さらに深刻だったのは、社会通念の変化速度である。「数年前は問題にならなかった広告表現が突然叩かれる。社会通念の変化速度が速く、従来の判断基準が崩壊しました。」と宮下氏は指摘する。

事業に2つの大きな課題が発生

この環境変化により、マクドナルドには2つの課題が浮上した。

1.ソーシャルメディア対応に起因する評判リスクからブランドの信用を回復すること
2.パーパス・バリューズを社内外に浸透させること

市場環境としても、社会ストレス増大・価値観多様化・パンデミック・ESG規制強化が重なり、「評判が落ちれば客数が落ちる」時代へ突入した。
「お客様の数と企業の社会的信用には非常に強い相関があり、その相関がビジネスにダイレクトに影響する時代背景が、少なくともこの10年ほどずっと続いていると思います。」と宮下氏は語る。

組織とオペレーションの課題──属人化と情報分断

宮下氏は、当時のレピュテーションリスクマネジメントに関する組織の課題について次の3つのポイントを挙げた。

リスク判断が属人化しやすい

「炎上の規模や深刻度、つまりリスクの重要度・緊急度をどう見極めるかは、最終的には数字だけでは判断できず、経験に頼る部分が大きいため、判断が属人化しがちです」

炎上の重大度や緊急性の判断は経験値に依存し、ばらつきが生じていた。

情報が店舗・コールセンター・SNSに分散していた

「情報が店舗・コールセンター・SNSなどに散らばっていて、「どこで何が起きているか」が一本化されていないと初動が遅れます」と宮下氏は課題を説明する。

部門ごとにリスク情報が孤立し、初動が遅れる要因になった。特に大手外食は店舗数が多く、現場の末端まで統一したリスク感覚を浸透させることは極めて難しい。

初動遅れは「炎上拡大」に直結

「初動が遅れると、炎上が拡大する前に手を打てなくなりますし、企業側が情報を把握するより先にマスコミの皆様が情報を掴んでしまうと、対応が後手に回る恐れがあります」

この課題に対し、宮下氏はマーケティングコンプライアンス体制の導入、クロスファンクション(部門横断)のチェック&バランス、情報共有プロセスの整備を進めた。

シエンプレとの出会い──「知見の外部化」が最大の価値

宮下氏がシエンプレを知ったきっかけは、佐々木社長のトップセールスだった。導入を決めた理由は明確である。

圧倒的な炎上リスク管理の実績・ノウハウ

「炎上リスクマネジメントについては、2000年代半ばから継続して取り組んでおられ、先行者ならではの深いインサイトとリスクリテラシーをお持ちです」と宮下氏は評価する。

長年の経験に基づく判断力は、内製化が極めて難しい領域である。

警察庁サイバーパトロールを唯一担う信頼性

「警察庁のサイバーパトロールを民間で唯一担っておられるという点も、パートナーとして非常に大きな信頼の根拠になりました」

国家レベルの警察業務を民間で請け負う希少な存在であることが、信頼の決め手となった。

社外知見を「組織知」として蓄積できる

「炎上の背景にある社会の文脈や、最新トレンドの『変化の読み解き』は内製化が難しいです。異動もあるので属人化しやすい。そこをシエンプレの外部知見で補い続けながら、組織知として残していくのが課題でした」

部署異動の多い大企業において、属人化しがちなリスク知識を継続的に補完できる点が評価された。

宮下氏は、「炎上リスクは、もはや現場や広報の問題ではなく『経営課題』」と語る。

シエンプレ導入による効果──「守り」が「攻め」へ転換する瞬間

シエンプレ導入後、マクドナルドには次の変化が生まれた。

組織のリスクリテラシーが向上

「定期的に勉強会や研修を実施していただき、最新の世の中の文脈について、広報だけでなくマーケティング、リスク管理、カスタマーサポートなど関連部署のメンバーが一緒に学べる機会を提供いただいています」

教育・伴走支援により、部門横断で判断の質が平準化された。

ブランドトラストの「守備力」が向上

SNS時代において、信頼を失えば客数減少に直結する。「組織として仕組み化されたブランドトラストに対する守備力の向上」が実現し、信頼維持は長期成長の前提条件として機能し始めた。

「攻め」の企画の質が向上する

「印象的な事例があります。ある広告案で、マーケティング部門は『ある素材をX%増量』 という広告表現(コピー)を作成し、社内の広報部門等と議論したところ、『生活者が誤認するリスクがある』と指摘されました。」

「20%、30%といった大幅な増量であればインパクトがありますが、数%レベルの場合、お客様はどう受け止めるだろうか、という懸念がありました。有利誤認とまでは言わないまでも、『実態以上によく見せすぎているのではないか』という不安がありました」

議論の結果、表現を根本から見直し、「味わいをよりしっかり感じていただけるようにした」「衣の工夫によって食感も良くなった」といった、お客様視点の価値を伝えるコピーへと再設計した。

「この新しいコピーで事前調査をしたところ、購入意向は当初案よりも高く、有利誤認のリスクはほぼゼロ。お客様にとっても魅力的な表現になっていました。」

企画そのものが強化され、売上にも寄与した。宮下氏はこれを、「守りが攻めを加速させる瞬間」と表現する。

「リスクマネジメントというと、『売上を取るのか、リスクを避けるのか』という二択になりがちですが、本来はそうではありません。そもそも、そのプロモーションの目的に立ち返り、『お客様にどのような価値を届けたいのか』を考え直すと、売上とリスク回避を両立できる表現は必ず見つかるはずです」

有事の際の「すぐに相談できる相手」の存在の安心感

「万が一案件が発生してしまった際に、すぐに相談できる相手がいる、というのは非常に大きな安心感につながります」

炎上や想定外の騒ぎが起きた際、日頃から多数の事例を見ている専門家の助言は、極めて大きな安心感をもたらした。

炎上・風評対策の「あるべき姿」──攻めと守りは二項対立ではない

宮下氏が導き出した結論は明確だ。

攻めと守りは同じ戦略の両輪

「攻めと守りは二項対立ではなく『同じ戦略の両輪』だと思っています。」と宮下氏は語る。

「『売上を取るか、リスクを避けるか』という発想は誤りであり、『共感を生むことが炎上しない設計になる』ことが最適解です。」

「攻めの施策は、社会の空気・価値観・規制の変化と同期していないと一瞬で逆風になる。だからこそ守りの体制は、企画の上流(構想段階)から考察し、『何を避けるか』ではなく『どうすれば共感されるか』を同時に考えることが重要です。」

初動・情報共有・役割分担を「平時から鍛える」ことが重要

「平時からマーケティングコンプライアンスのポリシーとワークフロー、ソーシャルリスニングと早期警戒、有事の初動プロトコルを『筋トレのように鍛え続ける仕組み』として運用する。」

「誰が判断し、誰が動き、誰が語るかを明確にしておくことが、初動の質を決める。」

「組織としてこの仕組みと体制づくりがリスク管理において欠かせません。」

リスクは『ブランド信頼を伸ばす原動力』になりうる

「これらが機能すると、リスクは単なるコストではなく『ブランド信頼を守り、伸ばす原動力』になります。」

「適切にマネジメントすれば、信頼構築の力となり、成長の基盤になります。」

企業への提言──「転ばない設計」への進化を

宮下氏が導き出した結論は明確だ。

最後に、宮下氏は次のように語る。

「デジタル/AI時代のリスクは、発生頻度が高く、拡散速度が速く、背景が複雑です。だから企業は、『転んだら止血する』型から『転ばない設計にする』型へ進化しなければならないと思います。」

「生活者が一日に接する商業メッセージは、2000年頃は2,000件程度だったが、現在は7,000件とも言われています。20年で約3.5倍に増え、それだけ炎上リスクの「母数」となるメッセージが増えているということです。」

「加えて、AIやデジタル技術の進展により、評判リスクの発生頻度は高まり、一度起きると拡散スピードも爆発力も増しています。今は複雑で予測が難しい時代である、という前提をまず受け止める必要があります。」

「そのうえで、『転んでから出血を止める』のではなく、『転ばないような仕組み』を作ることが重要です。」

「社会の動きを読むアンテナ、つまりレーダーをどれだけ高性能にできるかも重要です。ソーシャルリスニングだけでなく、有識者やジャーナリスト、インフルエンサー、政治家や官公庁の方々と直接対話し、規制・価値観・正義感が交差するところで何が起きているのかを、立体的に把握する必要があります。」

「縦割りではなく横串を通したクロスファンクショナルな仕組みも欠かせません。広報だけが頑張るのではなく、現場・コールセンター・マーケティング・リスクマネジメント・法務・コンプライアンスが横につながり、一緒にブランドを守っていく体制が求められます。」

最後に宮下氏は強調する。

「炎上はSNS上だけの出来事ではなく、社会課題や規制、価値観、社会的な空気感が交差する地点で生まれるものです。だからこそ、炎上リスクを広報や現場に任せきりにするのではなく、経営課題として捉え、コーポレートガバナンスの一環として重要な経営管理テーマとして扱う必要があります。」

「炎上はSNS問題ではなく『社会課題・規制・価値観が交差する経営課題』と捉え危機管理を経営戦略に統合できる企業こそが、長期成長を実現します。」

まとめ

宮下氏のインタビューを通じて、現代の企業が向き合うべきリスク管理の本質は次のように整理された。

まず、炎上リスクは企業の売上・ブランド・採用・組織運営に直結する「経営リスク」であり、もはや広報部門だけの課題ではない。平時からの体制整備、情報共有、役割の明確化こそが、いざという時の初動の質を大きく左右する。

さらに、外部専門家の知見を活用することは、「守りの強化」だけにとどまらず、「攻めの質」を高めることにもつながる。リスク管理は、ブランド成長を支える重要な経営戦略そのものであり、単なる危機対応のプロセスではないからだ。

この点において、シエンプレは単なる監視ツール提供企業ではない。「意思決定のそばに立つパートナー」として、企業の成長に寄与する存在である。宮下氏の言葉を借りれば、「属人性の高いリスク管理を、企業の組織知へと転換する伴走者」こそが、これからの時代に求められるリスク管理パートナーといえるだろう。

SNS時代の企業経営において、リスク管理は守りのためだけにあるのではない。むしろ、攻めの経営を加速させる重要な基盤であり、この認識を持つ企業こそが変化の激しい時代を生き抜き持続的な成長を実現していくのである。

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