イベントスタッフの個人特定まで至ったSNS炎上に学ぶ企業対応の教訓

SNS炎上が発生すると、非難の的となった人の身元が特定され、個人情報が晒されてしまうことがあります。そのようなトラブルに自社の従業員が巻き込まれた場合、企業はどうするべきなのでしょうか。今回は、K-POPカルチャーイベントを巡る騒動から、求められる対応を考察します。
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https://www.siemple.co.jp/isiten/K-POPグループのファン誘導に批判が殺到
2025年5月、千葉県の幕張メッセで開催されたK-POPカルチャーイベント「KCON JAPAN 2025」において、 韓国の9人組ボーイズグループ「ZEROBASEONE」の 「お見送り会」が開催されました。
「お見送り会」は、ファンが8,900円という高額な参加費を支払い、アーティストと1対1で挨拶できるというものでした。
その進行を担う通称「剥がし」と呼ばれる女性スタッフ(通称シュシュ女)の誘導に「過剰だ」との批判が殺到し、SNSで大炎上しました。

問題となったのは、イベント最終日に複数の来場者がSNSに投稿した動画です。
動画には、ステージ上で韓流アイドルとファンが交流する様子が映っており、複数のスタッフがファンに歩みを止めないよう誘導している姿が記録されていました。
しかし、その誘導がファンを必要以上に急かしているとして批判の声が上がりました。
中でも、特定の女性スタッフに対しては「笑いながら、『あーもう早く行けよ』などと発言していた」との投稿が拡散されました。
女性スタッフの行動で主に批判されたのは、次の3点です。一つ目は、「剥がし」のスピードが非常に速く、ファンがアーティストに挨拶する時間がほとんどなかったことでした。ファンは、高額なチケット代を払っているにもかかわらず、十分に交流できないことに不満を抱いたのです。
二つ目は、ファンを退場させる際に背中を押すなど、やや強引な方法で誘導していたことです。通常の速度で歩いていて、進行を妨げていないファンの背中も強く押されていました。
三つ目は、「剥がし」をしながら他の女性スタッフと笑い合うなど、ファンを冷やかしているかのような態度を取ったことでした。
ファンはアイドルとのコミュニケーションに多大な感情的・経済的投資をしているため、 その関係性を軽んじられたり、外部から妨害されたりしたと感じた際の反発は極めて大きくなります。
8,900円という高額な参加費を考えると、これらの行動が不適切だったことは否めません。
当該女性スタッフを指す「シュシュ女」という言葉が拡散した背景には、単にスタッフの不手際だけでなく、運営側の配慮不足と高額費用に見合わない体験への失望があります。
多大な投資をして参加しているイベントで、ぞんざいな扱いを受けたと感じたことが、ファンの強い不満・炎上につながりました。
女性スタッフの個人情報が晒される事態に
ところが、騒動は単なる炎上にとどまりませんでした。その日のうちにこの女性スタッフのInstagramアカウントが特定され、真偽は不明ながら住所、氏名、顔写真、勤務先の情報がSNS上で拡散したのです。
女性スタッフへの批判には賛同する声があった一方、「個人特定はやりすぎではないか」と主張する投稿などプライバシー侵害の深刻さを懸念する声も多く上がりました。
事態を受け、KCONの運営会社は公式ホームページでスタッフの対応について謝罪しました。謝罪文には「今後ともより一層丁寧なサービスを提供できるよう、スタッフへの教育や運営プロセス強化に取り組んでまいります。」と記されていましたが、炎上した女性スタッフに関する擁護はなく、一部では「従業員を守らない」との批判が聞かれました。
また、スタッフが着用していたジャケットの「STARTPOINT」という文字から運営サポートを行った会社が特定され、同社にも批判が集中したのです。
同社は公式サイトのトップページに声明を掲載し、「弊社スタッフの勤務態度に不適切な点があり、ご不快な思いをおかけしましたことをお詫び申し上げます」と謝罪しました。
そのうえで、「スタッフ個人への誹謗中傷はご遠慮いただきますようお願い申し上げます。個人特定や過剰な行為に対して法的措置を検討します」と説明しています。
企業側が取るべき対応は?
本件は、スタッフが運営方針に基づいて動いた中で起きた問題です。しかし、企業側の説明はスタッフ個人を擁護するものではありませんでした。
個人が特定されている現状を鑑みれば、「法的措置を検討する」という注意喚起のニュアンスではなく、「法的措置を講じる」と厳しく警告しても良かったはずです。
ファンの不満が正当であったとしても、個人情報の特定と拡散は許容されない私的制裁で、明確なプライバシー侵害に該当します。
「正義の実行」の名のもとで、法手続や倫理基準を逸脱する行為が加速していることを社会全体のリスクと認識すべきでした。
もちろん、訴訟を提起できるのは女性スタッフ本人に限られます。本人の氏名や住所が公になるリスクがあるため、訴訟のハードルが高いのも事実ですが、企業側が裁判費用を負担したり、法的措置を想起させて誹謗中傷を止めるように警告したりすることは可能です。
自社の従業員がSNSで晒されてしまった場合、企業としては事実確認と状況把握が不可欠です。どのSNS上で、いつからどのような内容が晒されているのかなど具体的な情報を収集し、スクリーンショットの保存など証拠保全も必要となります。
また、晒された従業員本人から詳細を聴取し、必要であれば他の関係者からも情報収集すべきです。晒された内容が名誉毀損やプライバシー侵害、ハラスメントなどに該当するかどうか、顧問弁護士に相談して法的な観点からも評価するのが望ましいでしょう。
一方、晒された従業員は、精神的なショックを受けている可能性が高いため、まずは従業員の安全と心のケアを最優先し、休職やカウンセリングなどのサポートを検討する必要もあります。
晒された情報が拡散しないよう、従業員に対しては個人的な反論やSNSでの情報発信を控えるよう指示します。他の従業員の動揺を防ぐため、適切な範囲で状況を共有した方が良い場合もありますが、憶測や誤解を招かないよう慎重に対応しなければなりません。
晒された内容が誹謗中傷、個人情報漏洩などにあたる場合は、SNSの運営元に削除申請をします。
悪質なケースで投稿者の特定が必要な場合は、弁護士と相談の上、発信者情報の開示請求を検討しましょう。名誉毀損やプライバシー侵害など、法的な問題が考えられる場合も速やかに弁護士に相談し、悪質であれば加害者に対する告訴や損害賠償請求を検討します。
社内では、従業員向けのSNS利用ガイドラインを再確認し、必要であれば更新しなければなりません。従業員が個人的なSNS利用においても、会社の品位を損ねる行為や情報発信は絶対にしないよう注意喚起を徹底しましょう。
従業員に対しては、SNS利用に関するリテラシー教育やトラブル発生時の対応に関する研修、SNSトラブルに関する相談窓口を明確にしておくことも求められます。
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事態が落ち着くまでの間は、顧客企業に関するネット上の投稿やネットメディアの論調をモニタリングし、世論の変化などを漏れなくお伝えします。
検索エンジンで表示される顧客企業の関連キーワードも綿密にリサーチし、不適切な語句がヒットした場合も速やかに収束させることが可能です。
炎上のリスクや被害を抑えるには、専門会社のサポートを受けるのが一番です。デジタル・クライシス対策の強化をお考えの場合は、国内ナンバーワンの取引実績と信頼性、豊富なノウハウを持つ弊社まで、お気軽にご相談ください。
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