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“止まらぬ告発”が企業を翻弄する(デジタル・クライシス白書-2023年9月度-)【第112回ウェビナーレポート】

公開日:2024.03.14 最終更新日:2024.04.30

※当記事は「Twitter」当時の内容となります。

性加害事実を認めて謝罪するもスポンサー離れ加速

桑江:最初のテーマは「不祥事」です。創業者の性加害の問題で大手芸能事務所A社が記者会見し、事務所として初めて性加害を認めた上で謝罪しました。会見では社長が引責辞任したことを明らかにしたものの、その時点では社名は変更しない考えを示していました。
会見を受け、多数の企業がA社所属タレントの広告起用の取りやめ、あるいは契約を更新しない方針を打ち出しました。
これまでは様子見の企業が多かったのですが、国連人権理事会の作業部会メンバーが被害者救済に向けた対応を政府に求めたことや、事務所自身が性加害を認めたことで動き出したという印象です。また、大手飲料メーカーの社長がA社との取引停止を表明したのも注目され、起用を取り巻く流れが変わったように思います。

前薗:トピックスとして捉えたいのは、大きく2点です。まず、社長が出席する謝罪会見は最後のカードであるということ。世間が感じている不信や不安、寄せられている声に対して回答し切れずに批判を浴びてしまうと、次に打てる手がなくなってしまいます。
社長の謝罪会見はそれほど重要な局面なので、自社でインシデントが起こったときの謝罪会見は誰が対応するのか、何に対して謝罪するのかは、社会の論調を踏まえて慎重に詰めるべきでしょう。
また取引先側は、世の中にはいろいろな論調がある中、取引停止のような対応は手のひら返しと言われてしまう場合があります。どういった立ち位置で意見を発信するかで、どのような批判、またはどのような賛同を受ける可能性があるのかを、事前に十分なシミュレーションをした上で対応しなければなりません。どっちつかずの発信で対立する論調の双方の支持層からにらまれてしまうのは、ワーストシナリオですね。

自動車保険不正、業界2位の企業でも発覚

桑江:保険金の不正請求問題が明るみに出た中古車販売業界に注目が集まる中、業界2位のB社でも同様の不正が横行している疑いがあることがわかりました。
複数の現役社員、元社員が内部告発しましたが、不正請求が大きな騒ぎになっていた8月、B社は率先して社内調査を実施。その際は「不正な案件は確認されなかった」と公表しました。
その後、週刊誌の報道が続く中、B社は保険契約のねつ造が相次いでいたことを確認したと発表して社長が辞任。スピーディーな対応が功を奏したのか、大きな批判にはつながっていない印象です。

前薗:同業他社が炎上している場合、競合に連鎖する可能性があります。自社が指摘を受ける可能性はどれだけあるか、自社の問題がメディアに取り上げられたとしても「過去の問題は解決しています」と言える状況を構築しておくことが、企業として正しい対応かと思います。

「劣悪な繁殖環境」ペットショップ最大手でリーク続出

桑江:ペットショップ最大手C社をめぐっても、内部告発が続出しました。店舗で子犬を購入した20代女性の話を取材した週刊誌報道によると、子犬は引き渡された当日から体調を崩しており、獣医から「2種類の寄生虫がいる」「命の危険がある」と診断されたといいます。女性は店舗にクレームを入れたものの、購入時に加入した生命保証制度を理由に「治療費は補償できないが、代替ペットは提供できる」と説明されたそうです。
これに対し、C社は法令や各種ガイドラインなどを遵守した透明性の高い事業運営を行っていると反論したものの、その後も顧客や元社員による内部告発が続発しました。暴露系インフルエンサーのもとには約80人もの情報提供者が現れ、不衛生な繁殖現場の画像などがリークされています。

前薗:内部告発が後を絶たないのは、企業の自浄作用を社会が期待していないことの表れではないでしょうか。SNSで声を上げるのは簡単で、もはや止めようがありません。企業としては、現場の問題に対処し続けるしかないということです。
企業が問題を把握し、対処が終わっているとなると、叩きようがなくなったメディアはトーンダウンし、あとは時間が解決してくれるかもしれません。
しかし、告発を受けても沈黙したまま、何の手も打っていないという見られ方をしてしまえば炎上は長期化します。火種がくすぶった状態が続いたまま、さらに大きな問題が起こった場合、水面下に留まっていた問題が一気に浮上してくる状況に陥ってしまいます。
繰り返しになりますが、リークを防ぐことはできません。外部の専門家に依頼するかどうかはともかく、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの観点で自社が指摘を受ける可能性がないかどうかを徹底的にチェックするしかないでしょう。

「全員20代」「可愛い」タクシー会社の女性運転手PRが物議

桑江:続いてのテーマは「ジェンダー・フェミニズム」です。北陸地方のタクシー会社D社がXの公式アカウントで、所属する女性運転手たちについて「全員20代」「めちゃくちゃ可愛い」などと繰り返し投稿し、アカウントを凍結されたことがわかりました。
容姿をことさらに強調するなどした動画と画像も投稿され、ネット上では「女性差別」「ドライバーを危険にさらす」といった批判が続出。社長は投稿が不適切だったと認め、責任を取り辞任する考えを明らかにしています。

前薗:ルッキズムに対しては、徐々にシビアさが増しています。プラットフォームも変遷する中、わずか1年前までは許されていたものが許容されなくなるというほどのスピード感でトレンドが変わっていることの証左かもしれません。

ランキングサイトでステマ、10月1日からは景表法違反に

桑江:次は「やらせ・ステマ」です。医師・薬剤師の転職サイトを運営するE社は、産業医サービスの比較サイトが実施した「産業医選びに最適なサービスのランキング」で1位に輝きました。しかし、実際には「広告であることを隠した広告」で、E社の1位の座は広告料を支払った対価として得たものでした。
ステマは2023年10月1日から、景品表示法違反になります。アフィリエイトサイトやランキングサイトなどにメディアなどから指摘が入ることも十分あり得ますので、出稿時も注意しなければなりません。また、それ以前に公開したサイトでも、10月1日時点で閲覧できる状態であれば責任を問われる可能性があります。

前薗:これまでのマーケティングの主力のひとつだった「ランキングサイトによるプロモーション」は、E社の炎上を受けて実質的に封じられる可能性が高まるでしょう。
アフィリエイトについては、アフィリエイター側が記事の編集権を確保できていればリスクは下がるかと思います。しかし、実質的に編集権が企業側にあるような状況が確認されれば「ステマではないか?」という指摘を受けるかもしれません。

広告イラスト盗用、原因は写真素材サイトだった

桑江:では「盗用・なりすまし」のテーマに移りましょう。インターネット接続サービス会社F社は、自社のサービスに関するX上のプロモーション投稿で「自身のイラストが無許可で加工、使用された」と訴えていたイラストレーターに謝罪しました。
注目すべきは、F社が使用したイラストはイラストレーターに無断で写真素材サイトに投稿されたものだったということです。企業側は料金を払うなどしてサイトを利用しているわけですが、本来の権利者ではない人物が投稿した写真が紛れ込んでいたとしてもわかるはずがありません。サイトの信用性、信頼性も、あらかじめ確認しなければならないでしょう。

前薗:F社に法的責任はなさそうですが、こうしたリスクを避けるためにはサイトの評判を調べておくことが大切ですね。企業としてはこれを機に、クリエイティブを活用する際のルール、基準もしっかりと見直すべきかと思います。

「100円ショップの公式アカウントです!」店員が無断で運営

桑江:100円ショップの店員が、運営会社の公式を騙ったSNSアカウントも話題になりました。
有名企業の公式アカウントからフォローされ、複数の企業公式アカウントとも交流。「企業さんと楽しくお話ししつつ商品等の掲載をしていく予定でございます」などと、まるで企業公式アカウントのような投稿を続けていたということです。
そうした事態を防ぎ、万一の場合もしっかりと否定できる環境をつくるという意味でも、自社の公式アカウントを持っておくべきかと思います。

前薗:なりすましリスクが高まっているのは確かです。そうしたアカウントがないかどうかを平時からチェックするのも、レピュテーションコントロールの一環と捉えて対応する必要がありますね。

「薄給でも頑張れる(重要)」FM番組のAD募集投稿に批判

桑江:最後は「その他」です。関東地方のFM番組のアシスタントディレクター(AD)募集の文言に対し、厳しい指摘が相次ぎました。Xに投稿された応募資格の目安には「薄給でも頑張れる(重要)」などと記載。「やりがい搾取はやめませんか?」「こういう表現が面白いと思っている感覚に絶句」といった批判が寄せられ、当初の投稿は削除されています。
このような表現は今の世の中では受け入れられないということが、改めてはっきりとした事案です。

前薗:SNS上では「企業はきちんと給与を出せ」という空気感が強いということを、番組側はしっかりと押さえておくべきだったと思います。

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