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年始に失われたSNS上の情報信頼性。災害時に浮き彫りとなった問題点とは(デジタル・クライシス白書-2024年1月度-)【第116回ウェビナーレポート】

公開日:2024.05.09 最終更新日:2024.05.31

※当記事は「Twitter」当時の内容となります。

能登半島地震の後、虚偽情報やデマが拡散

桑江:まずは、元日に発生した能登半島地震関連の動きを見ていきましょう。
石川県の40代の女性がXで、自分の住所とともに、「息子が挟まって動けない」と何者かに身に覚えのない投稿をされました。この女性は「デマとしか思えず、家の場所も分かってしまう。投稿を消してほしい」と訴えています。
この投稿はかなり拡散されましたが、拡散する時にはそもそもの出元が正しいのかということも踏まえて判断することが大切です。
Xの投稿では他にも、能登半島地震の被害を装って東日本大震災の津波の写真などを上げる事例がありました。
SNS上でトレンドになった話題について、同じ文面で画像や映像だけを変えただけの投稿が何十件ものアカウントから繰り返されることがあります。このような状況は、今のXの弊害と言えるかもしれません。

前薗:もちろん、フェイクニュースは許されません。しかし、インプレッション数を稼ごうと話題の出来事に便乗する動きは、インプレッション数に応じて投稿主に収益が還元されるプログラムをX側が改めない限り加速すると思います。
企業としても、自社にまつわる炎上事案が万が一発生した場合は、誤った論調を正していく役割も担っていかなければならないということを抑えておきたいですね。

金沢市内のコンビニ店が2倍の飲料水価格を表示

桑江:大手コンビニチェーンAは能登半島地震発生後の1月5日、金沢市内の加盟店が12本入りのペットボトル飲料水の価格を24本入りの価格で表示していたとして、公式サイトで謝罪しました。
X上では、金沢市内の店舗が上記飲料水の12本入りケースに2倍の価格を表示して販売していたとする情報が拡散。能登半島地震の発生を受け、波紋が広がりました。

前薗:災害時は料金の見せ方、商品の販売の仕方にも細心の注意を払わなければなりません。
特に、ケースには「12本入り」と手書きで書かれていたので、24本入りの価格を書いてしまったという説明には若干苦しい部分もある気がします。
SNS上でも「いつも取り扱っている商品の値段に違和感を覚えなかったのか?」といった指摘が上がりました。店舗の信頼性が揺らぐだけでもマイナスなので、そのような指摘をそもそも受けないようにしなければならないと思いますね。

航空機内へのペット持ち込み可否で大論争

桑江:次は能登半島地震の翌日、羽田空港で起こった日本航空の地上衝突事故関連です。炎上した日航機の貨物室に預けられたペット2匹が救出されなかったことについて、X上で大きな論争になりました。
ペットの話題をめぐる議論が白熱することは、これまでにもありました。しかし今回は、著名人が自らの意見を発信したことで多数の誹謗中傷コメントが寄せられ、SNSのコメント欄を閉鎖することになりました。
自分の意見が穿った見方をされたり、意図しない論点で批判されたりすることは十分起こり得ます。発信しようとする意見が正しいのか、そもそも発言すべきなのかをしっかり考える必要があるでしょう。

崩れて届いたケーキ、百貨店の信頼も崩れる

桑江:続いてのテーマは、製品やサービスの不具合・不誠実な対応です。百貨店大手Bは、オンラインストアで販売したクリスマスケーキが崩れていたと謝罪しました。
複数の購入者が崩れたケーキの写真をSNSに投稿した時、当初Bはオンラインストアのサイトにのみ謝罪文を掲載していました。
そのような対応には、「その程度の認識なのか?」といった批判の声も上がっています。

前薗:結果的に、この事案は記者会見を開くまでに至りました。だから、少なくとも公式サイトなどでアナウンスすべきだったと思います。
「原因は特定できない」と言い切ってしまった記者会見にも批判が殺到しましたし、ステークホルダーごとに主張の内容が異なったことも疑問視されました。Bの対応が後手に回ったことは否めないと思います。
こうしたインシデントが発生した際は、誰が主体となって対応するのかというコミュニケーションプランを立てることが必要です。
また、記者会見で「原因を特定できない」と説明すると「問題を解決しようとしていないのではないか?」と疑われるため、想像以上に批判が強まります。
「十分なプロセス、調査手法を講じて手を尽くしたけれど原因を特定できなかったのだから仕方がない」と世間に許容してもらえるかどうか、慎重に見極める必要があることも意識しておいた方が良いと思います。

ディスプレイのデザイン無断使用で謝罪

桑江:百貨店大手Cがクリスマスディスプレイの一部デザインについて、参考にした著作物の権利者から承諾を得ていなかった問題で、謝罪文を公開しました。
ディスプレイ制作について、インターネットなどで集めた画像を参考にしたと説明し、権利者に事前の確認と承諾を得るべきことを失念していたとしています。

前薗:このような事態を防ぐためには、自社の宣伝物、制作物を制作する際に、著作権などに関するルールを改めて見直すことが一番です。
模倣や盗用に関する世間の関心は強まっています。きちんとルールに基づいていると思い込んでいたとしても、指摘を受けやすい状況であることに変わりはありません。

購入意思を伝えたはずの車を他客に販売

桑江:中古車販売大手Dで客が中古車購入の意思を伝え、店員が承諾したものの、その車は後日勝手に他客に売られてしまったという投稿がX上にポストされ、波紋が広がっています。
10年、20年前なら内々の話で終わっていたと思われるこの投稿には、3万件以上もの「いいね」が集まりました。「条件の良い車で誘う『おとり広告』だったのではないか?」など、さまざまな推測が出ています。

前薗:両者の認識の不一致ということも十分考えられますが、商談のやり取りがネット上に露呈することは今や珍しくありません。業種・業界を問わず、自社の営業が何らかの指摘を受ける可能性がないかどうかチェックしておく必要があると思います。

ラーメン店で迷惑行為の学生が退学処分に

桑江:続いては客テロ(迷惑行為)です。人気ラーメンチェーン店の利用客が、店内で備品のふたに口をつけているように見える動画が拡散しました。SNS上では「汚い」「気分が悪くなる」といった批判の声が上がっています。
店舗側は客席にあるすべての備品をいったん回収した上で、消毒洗浄することを明らかにしました。
警察への被害届を検討する方針も表明しましたが、注目すべきは、これで一件落着にはならなかったということです。
一部のネットユーザーはこの客のInstagramやXのアカウントなどをたどり、通っている学校を割り出しました。騒動に巻き込まれた学校側は、本人を退学処分にしたということです。
客テロが回転寿司業界で頻発したのは、ちょうど1年前のことです。社会問題にまで発展した悪質な振る舞いがまだ行われているということには、本当に驚かされます。
迷惑行為を働いたのがサラリーマンであれば、勤務する会社に攻撃が向くかもしれません。一人ひとりの社員のリテラシーをどう高めていくかが重要だと思います。

前薗:企業にとって警戒すべきは、模倣犯の出現だけではありません。
客テロは大きな話題になる事案なので、ストックされている動画はたくさん存在するはずです。アフィリエイト目的のボット系アカウントが投稿してくる可能性があるので、気を付けなければなりません。
また、自社の店舗などでこうした事案が起きた場合は、すべからく厳正に対処するという対外的なスタンスを貫く必要があります。

生成AI使用は悪なのか?

桑江:最後はAI関連です。ペンタブレットメーカーGは、同社の米国支社のSNSアカウントのPR投稿に生成AIによるイラストが使われているのではないかと批判された件について、生成AIではないと確認して購入したとするコメントを発表しました。
日本でも、生成AIを使うことへの疑念や批判が非常に増えています。
もちろん、生成AIを使うこと自体が悪いわけではありません。ただし、何か問題が起きたときにイラストなどの購入先が守ってくれない可能性もあるといったリスクを踏まえておくことが大切です。

前薗:「『PR』マークがついていないコンテンツはすべてステルスマーケティングだ」というロジックと同じですが、そのような論調になっているということは認識しておかなければなりません。

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