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2024年は炎上件数が減少:インフルエンサーの影響力低下が要因か

公開日:2025.01.31

著者:桑江 令

炎上は過去最少の1225件

シエンプレが運営しているデジタル・クライシス総合研究所がまとめた「デジタル・クライシス白書2025」によると、2024年の炎上件数は1225件でした。2023年の1583件と比べると358件、20%以上の減少幅で、調査を開始した2019年の1228件も下回る過去最少の数となりました。

炎上件数を月別に見ると、5月を境に減ったことがわかります。1〜4月は100件を超えていましたが、5月以降は10月を除いて2桁台が続きました。100件を割り込んだ月が6月だけだった2023年とは、明らかに異なります。

では、炎上はなぜ減ったのでしょうか?1つの仮説を立てた上で、2025年の動向も予測してみました。

男性アーティスト不倫疑惑の臆測投稿が物議

炎上が減った要因として考えられるのは、「暴露系」や「告発系」と呼ばれるインフルエンサーの影響力が低下したことです。例えば、2023年に回転寿司チェーン店などで相次いだ「客テロ」は、炎上仕掛け人のSNSユーザーがインフルエンサーに動画の情報をリークし、インフルエンサーがSNS上で告発したことで炎上に発展するパターンが多く見られました。

このような流れは年をまたいでも変わらなかったのですが、転機となったのは、著名なインフルエンサーのA氏が2024年5月に、ある男性アーティストを連想させる不倫疑惑の臆測投稿をX上に書き込んだことでした。

男性アーティストが所属する芸能事務所の法務部は、投稿内容を完全に否定しただけでなく、A氏を名指しで批判した上で「事実無根の情報拡散、誹謗中傷に対し、今後とも厳正な姿勢で臨む」と、強くくぎを刺しました。

それ以降、A氏は自らのXアカウントの運用方針を変え、6月から8月にかけては炎上ネタを取り上げること自体を控えるようになりました。それまでは、真偽不明の話題であっても他のインフルエンサーなどに先んじて投稿していたのですが、第三者がすでに話題にした事象をまとめることが多くなったのです。

A氏の投稿数自体は、6月以降もさほど変わりませんでしたが、炎上ネタを扱うことには慎重になったため、「A氏が告発すれば、ほぼ炎上する」という構図は一変しました。9月以降は炎上ネタの投稿も復活しましたが、客テロのように一般人がとった不適切行為などの告発は鳴りを潜めています。白書のデータでも、2024年の一般人の炎上割合は前年から6ポイントほど減少しました。

インフルエンサー以外の投稿も注目されやすい状況に

インフルエンサーではない無名の一般ユーザーによる投稿が大きな反響を呼ぶケースが出てきていることも、インフルエンサーの影響力を相対的に押し下げている要因に挙げられます。

これまでは「バズらせたい」と思う事象があっても、影響力のあるインフルエンサーに投稿を依頼しなければ、なかなか拡散しませんでした。

しかし、東京都内の高級寿司店で「大将に殴られかけた」というトラブルを報告した女性が2024年1月に投稿した内容はメディアでも大きな話題となり、3億以上のインプレッションが集まりました。2023年中にインフルエンサーが告発した回転寿司店での客テロ動画投稿は最大でも1億程度だったので、いかに多かったかがわかります。

同様に、一般ユーザーが「焼き肉食べ放題で上タンばかり50人前を食べたら店長にマジギレされた」と発信した2024年3月の投稿も、インプレッションが1億を超えています。

注目選挙が炎上件数を押し上げた10月

一般人の炎上割合が減った2024年は、著名人の炎上割合が増えました。これは東京都知事選や兵庫県知事選、衆院選など、世の中の注目を集めた選挙に立候補した著名な政治家の言動について、有権者の間で論争が活発化したことに起因しているとみられます。

ちなみに、パワハラ問題などを受けて失職した前知事が出直した兵庫県知事選が告示され、「政治とカネ」の問題が争点となった衆院選が行われた10月は、単月の炎上件数が半年ぶりに100件を超えました。

ただ、注目の選挙が一段落した11月、12月の炎上件数は、いずれも2桁台に戻っています。ネット上では、政権批判などの声が多く見られましたが、SNS上のコンテンツをめぐって賛否が衝突し、炎上が頻発する流れにはなりませんでした。

炎上の乱発は収束の気配も…

こうした経緯を振り返ると、2024年は「どれもこれも炎上する」という状況から脱したように見受けられます。しかし、このような傾向が続くとしても、世間から糾弾されるインパクトの大きな炎上事案は、これからも少なからず出てくるのではないでしょうか。

実際に、2025年1月から、出演タレントの女性トラブル問題をめぐる在京テレビ局の説明対応が激しく炎上しています。数十社ものスポンサーが一斉にCMを差し止めたのは前代未聞の出来事で、多くのスポンサーが企業の社会的責任を重く受け止めていることが伝わってきます。

本事案を通しては、改めて、SNSの論調(ネット世論)の影響力が強まっていることも浮き彫りになりました。自社の公式SNSでCMの取り止めを宣言したスポンサーには賛意を示すコメントが殺到し、大きなうねりとなった論調を目の当たりにした他のスポンサーも続々と追随する動きが表面化しています。

これから先も炎上がゼロになることは考えられない以上、企業としてはSNSの論調を迅速かつ正確に見極め、必要に応じて何らかの意思表示をするなど真摯に対応する必要があります。炎上リスクを最小限に抑えるために欠かせないポイントは、2025年も変わらないということです。

2025年のSNS界隈で気がかりなこと

SNSのプラットフォームが多様化している中、最近はThreadsでの炎上事案が散見されるようになっていることも気がかりです。これまでの炎上は、ほぼすべてがX上で発生していましたが、Threadsだけで盛り上がるケースが出てきています。

現時点で、Threadsの炎上事案は社会的に認知されていないようです。しかし、それはメディアがウォッチしていないからに過ぎません。Xと同様に注目されるようになれば、Threadsの炎上事案がネットメディアの記事になったり、テレビ番組のトピックになったりするでしょう。

また、激戦となった2024年11月の米大統領選を前にしては、生成AIでより精巧に作られた偽の画像・動画「ディープ・フェイク」がSNS上にまん延しました。2025年1月7日には、米国のIT大手Meta社が、傘下にあるInstagramなどのSNSで行ってきた第三者によるファクトチェックを廃止すると発表しています。日本でも偽情報のコンテンツが出回らないとは言い切れず、企業が標的となる可能性もあります。

一方で、以前はバイトテロや客テロなど、自社の評判や信用をおとしめる行為に対して法的措置などをとる、またはとろうとすると、SNS上で「やり過ぎだ」と批判されました。そのため、企業が強硬手段に出るケースは少なかったのですが、そのような行為の手口が悪質化している昨今は、厳正な対処を肯定する論調が強まっています。

事後対応の巧拙が企業の明暗を分ける

SNS上には、事実を誇張した情報や完全なデマを意図的に投稿して盛り上げようとする人たちも現れており、企業が風評被害に巻き込まれれば、いかに対応するかが問われることになります。もはや「我慢して、やり過ごすしかない」ということはありません。先述した芸能事務所の法務部のように、事実無根であるということを毅然と主張する方が事態収束の早道となる場合もあります。

そうした意味で、企業が選択可能なインシデントの事後対応は幅が広がっているといえますが、今後は事後対応の巧拙が企業の明暗を分けることになるでしょう。2025年は、事後対応の誤りによる炎上が、目に付くようになるかもしれません。



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