“客テロ”とデマ、無断トレース。炎上の火種はどこに(デジタル・クライシス白書-2025年10月度-)【第139回ウェビナーレポート】

※2025年10月29日時点の情報です
目次
CMのイメージキャラクター交代に賛否の声
桑江:最初のテーマは、「メディア・スポンサー関連」です。
10月15日、健栄製薬は乾燥肌治療薬「ヒルマイルド」の新CMキャラクターに「timelesz」の原嘉孝氏と篠塚大輝氏を起用したことを発表しました。
これにより、2020年から同CMのキャラクターを務めていた「King & Prince」の永瀬廉氏の降板が明らかになりました。X上では、ファンから「悲しい」「廉くんだったから買っていたのに」「交代理由がわからない」といった交代を惜しむ声や疑問の声が多数あがりました。
同社は同日、公式Xアカウントで「多くのお問合せを頂いているヒルマイルドの前タレント契約につきまして、一つ一つのお問合せに時間がかかり回答をお待たせしている状況ですので、こちらで発信させて頂きます」としたうえで、「この度契約終了の申し入れを受けタレント契約を満了させて頂く事となりました。5年間もの長きに渡りヒルマイルドブランドをサポート頂けましたこと心より感謝しております」と永瀬氏の契約終了の経緯を説明し、長年の貢献への感謝も述べました。
その声明に対し、永瀬氏のファンからは、一部のファンが問い合わせをしたことへ批判の声があがるとともに、同社へ感謝するコメントも多く集まりました。
前薗:特に、旧ジャニーズ事務所の起用タレントを交代させる場合、ともすれば通常のキャスティングよりセンシティブな事案に発展する可能性が高まります。
企業としては交代時にどのような批判の声が出るかを想定しておく必要があります。
アパレルブランドのカスハラ注意喚起の投稿に批判殺到
桑江:インフルエンサー「さやぴ」がプロデュースするアパレルブランド「pium」が、9月28日に公式Xで顧客によるカスタマーハラスメントへの注意喚起を投稿したところ、炎上する事態となりました。
この投稿以前から、GoogleマップやX上では「スタッフの接客態度が悪い」といったネガティブな口コミが多数寄せられていました。
しかし、こうした指摘に対応しないまま、一方的に企業側から顧客への要求ともとれる注意喚起を行ったため、「スタッフの教育ができていないくせに何を言っているんだ」といった批判が殺到したのです。
この投稿をきっかけに、過去の口コミも改めて拡散され、「試着中に店員から体型を揶揄するような会話が聞こえた」といった新たな告発もX上で相次ぎ、炎上が拡大しています。
piumは30日、公式Xで「店舗での接客に関して、多くのご意見・ご指摘をいただきましたことを真摯に受け止めております」と謝罪し、外部講師による接客研修や第三者機関による覆面調査の導入といった再発防止策も発表して事態の沈静化を図りました。
前薗:企業が何らかの形で世の中にメッセージを出す場合は、自社が外部からどういう評価を受けているのかを押さえたうえでの情報発信を徹底する必要があります。
今回の場合、「我々にも改善すべき点があるのはもちろんですが」「さらにご満足いただけるよう努めてまいります」といった文言を加えて世間からの批判を認知していることを示しつつ、「一部に悪質な顧客がいることも事実なので注意喚起します」という趣旨を伝えていれば、批判を浴びにくかったでしょう。
奈良の鹿特集が「やらせ疑惑」で炎上
桑江:日本テレビの「news every.」が9月29日に放送した、高市早苗氏の「外国人観光客が奈良の鹿を蹴る」という発言を検証する特集が、「やらせ疑惑」として炎上しました。
番組内では「攻撃的な観光客は見ない」と証言した女性ガイドに対し、SNS上で「過去に別事件でもインタビューを受けていた、やらせ役者ではないか」との指摘が拡散。
さらに、日本テレビが公式YouTubeでこの女性のインタビュー部分をカットした動画を公開したことで、「証拠隠滅だ」と騒動が拡大しました。
元迷惑系YouTuberのへずまりゅう奈良市議も疑義を呈するなど事態は混迷。その中で日本テレビは公式サイトでやらせを否定し、取材協力者に対する誹謗中傷を止めるよう呼びかけました。しかし、動画編集の理由を説明していなかったこともあり、騒動はなかなか沈静化しませんでした。
前薗:炎上した企業は、世間が自社に対してどのような批判を向けているかを把握しなければなりません。謝罪文やリリースを出す場合は、納得してもらえる内容かどうかも考慮する必要があります。
「ワーク・ライフ・バランス捨てる」発言に賛否両論
桑江:次は、「不適切・不用意な発言や投稿」です。
10月4日、自民党の新総裁に選出された高市早苗氏が、選出後の挨拶で「私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てます」と発言しました。
この発言は、過労死問題などを背景に社会全体で働き方改革が進められている中で、時代に逆行するものとしてSNS上で大きな反響を呼び、「総裁による公的な場での発言の重み、影響力をわかっていない」「国民のために思い切り働く姿勢は素晴らしい」といった賛否の声が相次ぎました。
コンサルティング会社のワーク・ライフバランスは公式Xで声明を発表。「時間内で働いて、しっかり評価されて、生活できる給料が得られる日本社会をどうつくるかに尽力するのが、優れたリーダー」と指摘し、トップが長時間の労働を宣言すると部下が苦しくなると強調しました。
高市氏の発言は自民党議員向けでした。しかし議員事務所や関連省庁に勤める職員などへの影響も懸念されています。霞が関における長時間労働がさらに深刻化するのでは、との声もあがっています。
前薗:組織のトップが発するメッセージの重要性と、社会的影響の大きさを浮き彫りにした事案です。
個人の信条として長時間労働を是とする考えはあっても、それを公の場で、特に組織のトップが宣言することは、部下や関係各所に多大なプレッシャーを与え、時代が求める働き方改革の流れに逆行します。
今回の発言は、自身のリーダーシップをアピールする意図があったかもしれません。しかし、結果として多くの懸念の声があがり、ネット上で議論を呼ぶこととなりました。
リーダーや経営者は自身の発言がどのように受け止められ、どのような影響を生むかを意識しなければなりません。
「支持率下げてやる」発言でカメラマンを厳重注意
桑江:10月7日には、自民党本部で高市早苗総裁の取材を待機していた報道陣の中から「支持率下げてやる」「支持率が下がるような写真しか出さねえぞ」といった発言がインターネットの生中継で流れ、SNS上で拡散される騒動がありました。
音声は、他社のカメラマンらとの雑談中のものでしたが、インターネットのライブ配信の音声に含まれていたため、SNSで急速に広まりました。
この発言に対し、SNSでは報道の中立性を疑う声や批判が殺到しました。時事通信社は9日、発言者が同社の映像センター写真部に所属する男性カメラマンであることを認めて本人を厳重注意したと発表。
同社の斎藤大社長室長は「自民党をはじめ、関係者の方に不快感を抱かせ、ご迷惑をおかけしたことをおわびします。報道機関としての中立性、公正性が疑われることのないよう社員の指導を徹底します」と謝罪しました。
前薗:本事案では当日の記者会見の画像などが出回り、“犯人捜し”が横行しました。
就業時間内に起こった従業員起点のインシデントに関しては、当事者の人権を守りつつ問題解決を図る危機管理広報が求められます。
世界陸上の女子選手、電車内での体操動画投稿で炎上し謝罪
桑江:東京で開催された世界陸上カメルーン女子代表のノラ・モニー選手が9月25日、自身のInstagramに動画を投稿し、大きな物議を醸しました。
動画はJR埼京線大崎駅に停車中の電車内とみられ、ノラ選手が吊り革の金属棒を鉄棒のように使って体操する様子が映っていました。
当初、海外からはその身体能力に賞賛の声も寄せられましたが、9月28日頃から日本国内のXなどで「迷惑行為」「マナー違反」として拡散されて炎上。
本人のInstagramの当該投稿にも、29日夕時点で2100件を超えるコメントが寄せられ、ノラ選手は30日に動画を削除して「法律違反ではなかったが、エチケットに反していた」と謝罪しました。
JR東日本は取材に対し、「もし弊社の車両なら、迷惑行為にあたるので止めてほしい」とコメントしています。
前薗:日本人のマナーや配慮へのこだわりは強いものがあります。そのため、海外のタブーを侵した日本人も、今回と同様の批判にさらされることを認識しておかなければなりません。
迷惑動画が拡散し炎上、「厳格な対応」求める声も
桑江:続いては、「客テロ(迷惑行為)」です。10月中旬、回転寿司チェーン店で、女子高生とみられる女性が迷惑行為を働く動画がSNSで拡散され、炎上しました。
動画には、女性が回転レーンの寿司を素手で触って戻したり、しょうゆ差しを直接口に流し込んだりする様子が映っていました。
この動画はInstagramのストーリーズや、位置情報付きでSNSアプリ「BeReal」にも投稿されたことで店舗が特定され、行為者や撮影者の個人情報も特定される事態に発展しました。
なお、この女性らは別の飲食店でも迷惑行為を撮影・投稿したとみられています。
同社は14日に公式サイトで「厳正な対応をしていく」との声明を発表し、実行者を特定して警察に相談していることを明らかにしました。
ネット上でも、2023年のスシローでの客テロ事案を踏まえ、「ちゃんと賠償請求するべき」など厳格な対応を求める声が多くあがっています。
前薗:本事案は、これまでも発生した客テロ行為ですが、動画をアップした女子高校生をめぐっては卒業アルバムの顔写真や実家の住所、親御さんの勤務先などが流出するなど、深刻なプライバシー侵害へと発展しました。
企業としては、第三者による私的制裁が横行した場合に、どのようなポジションやコミュニケーションを取るかというシナリオを考えておく必要があります。
ニコニコ動画へのステマコメント依頼が発覚し炎上
桑江:最後は「その他」です。
週刊文春が、ある疑惑を報じました。自民党総裁選に立候補した小泉進次郎氏陣営が、ニコニコ動画に称賛コメントを投稿するよう関係者へ依頼していたというものです。
報道によると、広報班長を務める牧島かれん元デジタル大臣の事務所から陣営関係者に対し、「総裁まちがいなし」といった称賛コメントを投稿するようメールで依頼があったといいます。それらのコメントの中には、「ビジネスエセ保守に負けるな」など対立候補の高市早苗氏を揶揄するような例文も含まれていたそうです。
小泉氏陣営も事実関係をおおむね認める中、この報道はXなどのSNSで拡散され、依頼主とされる牧島氏のXアカウントには批判が殺到しました。牧島氏はコメント欄を閉鎖したものの、引用リポストで「国民のことをバカにしている」「ステマ指示」といった厳しい声が寄せられました。
前薗:利害関係者だとわからない形で口コミをつくったわけですから、典型的なステマと言えます。見る側に対し、関係者による口コミかどうかを一目瞭然にしなかった時点で、何も申し開きできない事案だったと思います。
人気イラストレーターにトレパク疑惑、広告起用企業が相次ぎ対応
桑江:イラストレーター江口寿史氏に「トレパク疑惑」が浮上しました。SNS上の女性の写真を無断トレースし、商業広告用のイラストを制作したとされ、大きな騒動になっています。
発端は、ファッションビルのイベント告知用に制作された女性の横顔のイラストで、江口氏はXで、Instagramで見かけた写真を元に描いたと説明し、後に女性本人から承諾を得たと釈明しました。
しかし、商業利用における著作権や肖像権の侵害を指摘する声が相次ぎ、過去の作品にも同様の疑惑が次々と浮上する事態に発展しています。
この騒動を受け、同ビルは該当イラストの使用を中止し、江口氏のイラストを起用していたデニーズ、Zoff、大手カード会社などの企業も広告掲載を停止するなどの対応に追われました。
Zoffは10月24日、調査結果を公表し、江口氏本人から、納品されたイラスト4点のうち2点について「権利者の許諾を得ずに雑誌の写真を参考にした」との説明があったと公表しました。「補償については関係者間で協議中」とし、管理体制を見直す方針を示しています。
前薗:想像以上に尾を引いている事案です。江口氏に関する同様の疑惑の追及は、今後も続いていくとみています。
世間で大きな話題となったトラブルが発生した場合、企業としては「自社に影響しないか?」を確かめることが大事です。
