炎上時の謝罪が株価下落を招く?東大論文から考える危機管理対応のあり方とは
- 公開日:2024.11.15
炎上事例154件の対象企業を分析
インターネットやSNSによる情報の拡散は、企業にとってポジティブな情報だけではなく、不祥事や商品・サービスの問題といったネガティブな情報も含まれます。ネガティブな情報が広がって炎上に発展した場合、事態を収束させるための対応を取らなければなりません。
こうした中、「ネットで炎上した企業は謝罪やコメント削除などの対応をすると、対応しない場合より株価が大きく下落する」という東大大学院の研究論文(JSDA_Takeda.pdf)が注目されています。
「2009年から2018年までの日本の上場企業を対象に、154 件のネット炎上事例について、対象企業の株価反応を分析した」という研究では、「154 件の炎上のうち、80 件は企業が対応をしなかった。残りは謝罪をする、コメントを削除する、反論する、などの対応を行った」と区分しています。
その上で、「対象企業の株価は、対応をした方がしない場合に比べて、大きく下落した」と分析し、「対応の中では、企業が反論をしたケースが、その後株価がより長く低迷することが示された」とも結論付けました。
炎上が株価下落を引き起こすこともあるのは事実
企業が不祥事や問題を起こして炎上した場合、謝罪を含めて速やかに対応するのが一般的です。今回の研究結果は、インシデント対応の常識と反するようにも見えますが、実際に炎上した場合は、論文が示唆するように対応する方が良いのか、それとも常識に従って迅速に対応すべきなのでしょうか?
シエンプレが運営する一般社団法人デジタル・クライシス総合研究所のデータによると、炎上が発生した企業の株価動向はさまざまです。ほとんど影響がなかった企業もあれば、大きく下がった企業もあり、一度は落ち込んだものの事後対応が評価されて持ち直したというケースも見られます。
そのため、炎上が必ずしも株価下落を引き起こすとは言えませんが、そのような可能性があることは事実です。
炎上事案への関心は最長72時間で薄れるが……
「人の噂も七十五日」ということわざがありますが、社会問題化するほど大きな不祥事などを除いた炎上事案に対しては、最長でも72時間(3日間)を経過すると人々の関心が薄れていきます。
炎上参加者の9割以上は当該事案に関する直接の利害関係者ではなく、外部の「観衆」に過ぎません。3日間もすると別の話題に興味が移るため、自社の不祥事や問題が原因で炎上を招いたとしても反応せず、だんまりを決め込むことも事後対応の選択肢のひとつになり得ます。
ただ、炎上参加者から見て、反応がない相手、顔が見えない相手は、いくらでも叩ける存在です。そのため、何も説明しなければ「言い返す余地がないからだ」とみなされてしまうことがあります。
また、事実認定を一切していないにもかかわらず、不祥事や問題を起こした企業という印象だけが広まり、炎上被害が長期化してしまうことも考えられます。炎上事案が企業の広報対応やSNSに起因しているのであれば、ソーシャルメディアの運用の再開・継続が困難になり、プロモーションのチャンネルを失ってしまうかもしれません。
炎上がいったん収束したとしても、不祥事や問題に関する新しい情報が出てきた場合や、同様の事案を起こした他社が炎上したときに、「そう言えば、あの会社の件はどうなった?」と蒸し返されてしまうことも往々にしてあります。
炎上後に取るべき対応は事案の内容にもよりますが、これらのリスクを長期的な時間軸のもとで天秤にかけ、メリットを得られるかどうかを考えることが重要です。そうなると、基本的には何らかのリリースやアナウンスを出しておくことが求められるでしょう。
不誠実な対応が火に油を注ぐことも
ケース・バイ・ケースではありますが、謝罪することも、炎上の沈静化を図る上で効果的な手段のひとつです。今回の研究論文では、「謝罪しない企業の方が株価は下がらなかった」ということですが、不誠実な対応が火に油を注いでしまった事例もあります。
自社の炎上事案に世間が関心を寄せなくなるまでひたすら待ったとしても、無罪放免になるわけではありません。不祥事や問題が発生して炎上したという事実は残り続けるため、謝罪しなかったことでダメージが膨らんでしまうこともあり得ます。そうしたリスクをしっかり勘案した上で、謝罪すべきかどうかを判断する必要があります。
もちろん、「逃げ得」になることが絶対にないとは断言できませんが、逃亡に成功したように見えて、実はそうではなかったというケースは少なくありません。マクロの視点では、それほど大きな騒ぎになっていないように見えても、ソーシャルメディアでプロモーションを発信するたびに不祥事や問題があったことを指摘される、あるいは株主総会で質問攻めに遭うなど、各論で見るとネガティブな影響が表面化していることがあります。
自社に関わる炎上が発生した場合は、世間の論調をしっかりと調査し、消費者が何に対して怒っているのか、どのような層が怒っているのかを分析しなければなりません。その上で、企業の顏が見える対応として、指摘を受けた事象に対する謝罪文の公表などが推奨されます。
炎上対応が早い企業の方がダメージ回復も早い
無関係の第三者からすると、顔が見える相手を批判し続けることはためらうものです。企業がいち早く問題を認識し、対処していることがわかれば、炎上参加者は手を引いてくれます。速やかに情報を開示することで、広報対応の火種を抱えながらインシデント対応を進めざるを得ない状態を避けられ、本来注力すべき問題の解決に向き合うこともできます。炎上対応が早い企業の方が、ダメージからの回復も早い傾向が見られるのは、そのためです。
謝罪文に必要なのは、自社の非は何だったのかを認め、再発防止策もつまびらかにして速やかに謝ることです。自社の落ち度が小さいとしても、他者を一方的に批判してはなりません。
何も対応しないことを選んだ企業の多くは、「謝罪などをすれば、自社の不祥事や問題を知らなかった人にまでマイナスの印象を与えてしまう」ということを恐れがちです。しかし、企業が忘れてならないのは、すべてのステークホルダーに誠実さを示し、約束を果たす「Brand Integrity(ブランド・インテグリティ)」の姿勢です。厳しいときこそ、それを実践することが、炎上被害を最小限に食い止め、自社のイメージを回復させることにつながります。
文=前薗 利大(まえぞの としひろ)
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