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新聞広告から大学講義での発言まで。続くジェンダー論争(デジタル・クライシス白書-2022年4月度-)【第82回ウェビナーレポート】

公開日:2022.05.03 最終更新日:2023.06.21

急進的なジェンダー平等論に批判も

桑江:まずは、今回の主要テーマである「ジェンダー関連」の炎上事例についてお話しします。
4月4日、胸の大きな女性キャラクターが登場する漫画の単行本発売を告知した新聞の全面広告をめぐり、さまざまな議論が巻き起こりました。

単行本の表紙には女性キャラクターの胸部をより強調したイラストが使われたことを踏まえると、新聞広告のイラストは意識的に抑制した表現だったことが分かります。
しかし、この新聞広告に対してはさまざまな批判が上がり、ある女性ジャーナリストはオンラインメディアのインタビュー記事で「『見たくない』人にも情報が届いた」など3つの問題を列挙しました。
このメディアは、女性の地位向上を目指す国連組織UNウィメンが問題の広告を掲載した新聞社に抗議し、社外への公式の説明の必要性を指摘したとも報じたのです。

ところが、このインタビュー記事は掲載後のサイレント改ざんが指摘され、女性ジャーナリストからもUNウィメンとの関係性を疑う声が相次ぎました。
「表現の自由」という観点で、UNウィメンの抗議に対しては各方面の著名人から多数の批判も寄せられています。

前薗:以前のジェンダー炎上に関しては否定的な声が多勢を占めていましたが、今は「そこまで言わなくてもいいのでは?」という風潮が出始めています。
今回の事例もそのような空気感が強く、ジェンダーの文脈が変わりつつあるという印象です。

クローズドのはずが…大学講座での性差別発言が炎上

桑江:一連の論争を追っていくと、漫画の内容自体に言及するケースが見受けられますが、新聞広告の事象だけを見るべきだという論調も広がっています。
4月17日には、大手牛丼チェーンを運営するA社の常務取締役企画本部長の男性が、自身が講師を務める大学の講座で、自社の若年女性向けマーケティング戦略をめぐり性差別・人権侵害に当たる不適切な発言をしました。
A社は謝罪文を公表し、翌18日付でこの役員を解任。大学側も謝罪文を表した上で、当該講師を講座担当から降ろすと発表しました。

前薗:今回の発言内容が許されないのは一目瞭然だと思いますが、こうした形の処分がスタンダードになりそうだという流れも注視していく必要があるでしょう。
A社は3月、自社のキャンペーンが炎上して謝罪したばかりでしたし、先述した新聞広告のジェンダー炎上とも紐付けられ、炎上被害が大きくなってしまったと思います。

桑江:例えば、マーケティング界隈で使われる「囲い込み」といった用語も、一般的な感覚では「驕り」に思えるかもしれません。
業界内からは、そうしたことに対して無意識、無自覚でいることも問題なのではないかという指摘が上がっています。
今回の発言内容が表沙汰になったのは、受講生のFacebook投稿がSNS上で拡散されたのがきっかけです。
企業としては、例えクローズドの場の発言であっても問題視されるリスクが潜んでいるということを考えなければならないと思います。

前薗:そうですね。

キャンペーン特典の「後出し条件」が問題視

桑江:ちなみに、A社が3月に炎上したキャンペーンは「お名前入りオリジナル丼」をもらえるというものでした。
名入れに関するレギュレーションはなかったのですが、特典を獲得した段階で「本名に限定する」という後出しの条件を加えたのが炎上の理由です。
著名人の名前を勝手に使われて転売されてしまうと法的なリスクが生じることに気付き、条件を追加したのでしょう。
しかし、周知が不十分だった上、問い合わせを受けたお客様相談室の室長のぞんざいな対応も晒されて問題視されました。

前薗:キャンペーンなどを展開する場合は事前に条件を見極め、追加するならきちんと告知することが重要です。
お客様相談室とのやり取りを晒される可能性があることも意識して、しっかりと社内で対応しなければなりません。

ナチス式敬礼の悪ふざけで解雇

桑江:続いて、「歴史・宗教」関連の炎上事例です。
4月10日の欧州カート選手権で優勝したロシア出身選手の振る舞いが物議を醸し、所属チームが契約を打ち切ると報じられました。
この選手は表彰台で胸を右手で二度叩き、腕をまっすぐ前に伸ばした後で大爆笑したのですが、ナチス式敬礼を連想させる動作をした後に笑ったことが問題視されたわけです。
欧州ではナチス式敬礼はもちろん、ナチスを連想させる事象に関してかなりナーバスだということを、しっかり認識しておかなければなりません。

前薗:ロシア・ウクライナ問題は世界全体におけるナーバスな問題で、今後もこのような類似事案が起こり得るということを押さえておくべきでしょう。
今回の処分を受け、ナチス式敬礼が一発アウトの事案に加えられたということも覚えておいていただければと思います。

デマ投稿を的確に否定した公式アカウントに好感

桑江:「炎上に対する企業の対応が良かった事例」も紹介しましょう。
3月21日、通信教育大手のB社が発行する教材に「反ワクチン運動のチラシが封入されていた」と告発するデマツイートが拡散されました。
B社は翌日、公式Twitterで完全否定した上で注意を喚起。事実関係を確かめる複数のユーザーにリプライを送ったことが評価され、因果関係は不明ながら株価も上昇しました。
デマが広がってしまった場合、SNSの公式アカウントには真偽をただすリプライが届くことが多いので、否定できる内容はしっかり否定することが重要です。

前薗:そういう意味では、B社のような対応ができる企業の公式アカウントを持っておくべきでしょうね。

馬刺し写真に他社の競馬ゲーム名 作品ファンが反発

桑江:では、その他の企業・団体の炎上事例に移ります。
スマートフォン向けアクションRPGを手掛けるC社が、ゲーム開発スタッフのTwitter投稿について謝罪しました。
問題になったのは、馬刺しの写真を添付した「ウマ娘プリティーダービー」というツイートです。
競走馬をキャラクター化した同業他社のゲームを揶揄しているとして、この作品のファンから批判の声が上がりました。

前薗:「ウケるだろう」と思って投稿されたと思いますが、スベってしまったパターンでしょう。
他社の過去事例を見ても、スタッフの投稿に対する批判が所属先の企業に集中したケースがあるので注意が必要ですね。

「速報です」と個人的な話題を紹介 テレビ演出が物議

桑江:続いて「テレビ関連」です。あるバラエティー番組の演出が物議を醸しました。
ゲストの芸能人のトーク中に突如チャイムが鳴り、アナウンサーが「ここで速報です」とニュースを読み上げるのですが、ゲストの個人的な話題を紹介するだけの内容で、「びっくりする」「災害などと勘違いする」などの声が多く聞かれました。

前薗:戦争や地震が起こった時期なので、特に敏感に反応された方が多かったのではないかと思います。

ウクライナ虐殺の陰謀論を支持?リツイートに猛批判

桑江:そして、個人の炎上事例です。
サッカーの元イングランド代表選手が、ウクライナのキーウ近郊でのロシア軍によるウクライナの民間人大量虐殺についてメディアがでっち上げたかのような投稿をしたニュースサイトのツイートを引用し、「陰謀論を支持した」と批判が殺到しました。
本人は投稿を削除したものの、現役時代の大半を過ごしたクラブのアンバサダーを辞任することを発表したと伝えられています。
リツイートも責任を追及されるのは法的に立証されているので、企業の公式アカウントでリツイートする場合は注意しなければなりません。

前薗:国政政党の代表が自身に関するSNS投稿のリツイートをした一芸能人に訴状を送った件もあるので、注意が必要だと思います。

侮辱罪の厳罰化は誹謗中傷抑止の決め手となるか?

桑江:さて、最後になりますが、インターネット上で中傷誹謗をしている本人は、加害者であることを自覚していません。
同一人物、しかも身近な人が複数の端末、アカウントを使って誹謗中傷を繰り返していたという事例も起こっています。
発信者情報の開示請求の簡略化が浸透すれば、速やかに訴えることもできるようになると思いますが、プロバイダ側はどんどん増えている開示請求をさばけるリソースがないという問題を抱えているようです。
ポータルサイト側も誹謗中傷の抑止策を打ち出してはいるものの、このような被害が広がっている事実の重さをできるだけ多くの方が認識しなければ、なかなかうまくいかないでしょう。
企業としては、社員の方々が加害者になってしまう可能性も踏まえたリテラシー教育をしていかなければなりません。

前薗:韓国で2007年にネット実名制を導入したものの、誹謗中傷の件数は減らなかったというデータがありますね。

桑江:先述したように、誹謗中傷をしている本人は「自分は悪くない」と思い込んでいますから。
日本でも侮辱罪の厳罰化を柱とする刑法改正案が衆院で審議入りしましたが、どの程度の効果を得られるかはいろいろな観点から見ていかなければなりませんね。

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