企業VS告発者- SNS時代の“正義”のゆくえ(デジタル・クライシス白書-2025年11月度-)【第140回ウェビナーレポート】

※2025年11月26日時点の情報です
目次
アンケート文の表現で法的措置を示唆され謝罪
桑江:まずは、「メディア・スポンサー関連」です。
前提として、この件は田端信太郎氏への刑事告訴に関する話題ですが、本来の告訴主体は「メルカリ社」ではなく「社員個人」でした。しかし、当初の報道等により「会社が告訴した」という認識が一部で広まっていたという背景があります。
こうした状況下で、スタートアップメディア「SUAN」が10月28日、誤認に基づき「メルカリ社による田端信太郎氏への刑事告訴」と題したアンケートを配信しました。すると翌29日、メルカリの代理人弁護士から「告訴主体はメルカリ社ではなく社員個人であり事実に反する」「誤情報の拡散を継続された場合、法的措置を講じる所存」との指摘がDMで入ったことを明かしました。
これを受けSUAN側は、メルカリの公式リリースや複数の主要メディアの報道が「メルカリが」と読み取れる内容だったことを根拠としつつも、「侮辱罪の告訴権が個人に限られるという法的解釈を考慮していなかった」と不備を認めました。結果、配信内容の表現を「メルカリ社員による~」と修正したうえで経緯を説明する謝罪記事を公開しています。
しかし、この記事がXで拡散されると、SUANの事実誤認への指摘だけでなく、メルカリ側の高圧的な対応や、そもそも誤解を招くプレスリリースを出していた点も問題視され、SNS上で物議を醸す結果となりました。
前薗:メルカリ社への攻勢を強めようとした矢先に、表現の修正作業を強いられるという「ブーメラン型」の対応を招いてしまった事案です。
企業が容易に法的措置を取れる時代であることも考えると、オンラインのメディアも既存のマスメディアも自らの情報発信のあり方にいっそう気をつけなければならない段階に突入したと言えるでしょう。
YouTube番組で紹介した企業の不祥事が相次ぎ物議
桑江:動画配信経済メディア「PIVOT」は11月18日、不適切な会計問題が浮上している「オルツ」および「ニデック」を紹介したスポンサード番組に関して、公式見解を発表しました。一部のSNSやネット記事などで公開された「不正確かつ批判的な投稿」を受けた対応です。オルツに関しては、不正会計報道の翌日に動画を非公開化しましたが、事前の告知なく削除した点に批判が集まったことで反省の意を表しました。
一方、ニデックに関しては、「告知なく非公開にされた」との情報がSNS上で流れていたものの、実際には削除・非公開化しておらず、同日時点で視聴可能だと説明しています。
今後については、ニデックの第三者委員会による調査結果を踏まえて対応を判断するとし、広告掲載基準については上場企業の会計不正を見抜く難しさに理解を求めつつも、スタートアップ企業などへの審査体制を強化していると説明しました。公式サイトで詳細な経緯を公表したのは、事態の沈静化を図る狙いがあるとみられます。
前薗:ネット上の声を見ると、謝るべきことは謝り、認めるべきことは認めたうえで、事実と異なることや反論すべきことには正しい情報を伝えたという受け止め方が目立ちました。私自身も、説明すべき点については説明したという印象です。
自社のネガティブな評判を静観・放置するのではなく、真摯に向き合って実態を伝えるという対応が示された事案と言えるでしょう。
「高額療養費」記事が炎上、患者団体が猛反発
桑江:大手新聞社Aが11月1日、「高額療養費制度を空気のように使っている」と言い、患者側に「賢い患者」になるよう意識改革を促すNPO理事長の取材記事を公開しました。
ところが、この記事を告知した公式X投稿が「患者の実態と乖離している」「ミスリードを招く表現」だと強い批判を集めています。
特に、全国がん患者団体連合会(全がん連)理事長の天野慎介氏による「負担に苦しむ患者さんの現状とかけ離れた認識」との反論投稿は、元投稿を上回る2,400以上のリポストと5,400以上の「いいね」を獲得しました。
元投稿にはコミュニティノートも付記され、研究者からもデータに基づき「破滅的医療支出」の実態や論点のズレが指摘されるなど、炎上状態となりました。
前薗:高額療養費制度は政治的にもセンシティブなトピックで、慎重な議論が必要です。
そのため、ミスリードを招きかねないタイトルや文面は批判を浴びやすい傾向があります。メディア側が自らの主張を恣意的に発信しているという憶測も生みやすいので注意が必要です。
「国旗損壊罪」をめぐる発言で炎上、Xでの対応がさらなる火種に
桑江:次は「不適切・不用意な対応」です。
お笑い芸人のカンニング竹山氏が、10月31日配信の「ABEMA Prime」での国旗損壊罪をめぐる発言で炎上しました。
番組で参政党が提出した法案の是非を議論する中、竹山氏は「日の丸を嫌いな人もいる」「法律で決めることではない」と持論を展開し、「(国旗を嫌いな人の)気持ちはどうするんですか?」と主張したことがSNSで批判を浴びました。
さらに11月7日、作家の門田隆将氏がXで竹山氏を批判したところ、竹山氏は「真意が伝わっておらず大変困っております」「説明しに参ります」と返信しました。
これが1,000万件超のインプレッション、2,000超のリポストを獲得したのですが、「説明するなら公の場で」といった批判が再燃して騒動が拡大しています。
前薗:国旗は極端な意見が存在するトピックですが、ネットやSNSは比較的、過去の事案から見ても、ネットやSNS上では保守的な層の声が大きくなりやすい傾向があり、今回はその影響が強かったとみています。
企業がこのようなセンシティブな話題に触れるケースは少ないと思いますが、ベンチャー・中小企業の経営層の中には、自身の政治的な思想・信条について明文化している方々も一定数いるでしょう。
そのような企業の場合、経営層の思想・信条と自社の方針は異なることをいつでも発表できる準備を整えておく必要があります。
YouTuberの不適切発言で炎上したアンバサダーの契約を解除
桑江:プロテインブランド「VITAS」のアンバサダーを務めていたYouTubeチャンネル「格闘キャスト」が、配信動画内で格闘家の伊澤星花選手を侮辱する不適切な言動をしたとして炎上しました。
騒動を受け、10月30日に伊澤選手と同じジムに所属する朝倉未来氏がYouTubeで「絶対に許せない」と同チャンネルを厳しく非難しました。さらに、以前から言動に不快感を持っていたことも明かし、法的措置の可能性も示唆しています。
この告発により騒動が拡大すると、「格闘キャスト」側は謝罪動画を公開しましたが、批判の声は収まりませんでした。
事態を重くみた「VITAS」販売元の株式会社スリーピースは翌31日、代表取締役社長名義で「当該行為は当社としても許容されるものではなく、社会的にも看過し得ない」との声明を発表し、同日付で「格闘キャスト」運営会社とのアンバサダー契約を解除したことも明らかにしました。
前薗:広告塔の人物が不適切な発言をした際、発生している問題は何か、世の中は何に怒っているのかを速やかに把握し、自社のポジションを決めてコミュニケーションを取れるかどうかが重要です。
今回の件では契約解除、つまり企業がアンバサダーを批判する見解を示しましたが、このように自社のポジションを速やかに決めて発表した点は参考になると言えるでしょう。
社員の「割高」発言でポップマート株が急落
桑江:中国の玩具大手ポップマートの株価が11月7日の香港市場で急落し、一時5%超安と5月以来の安値水準に落ち込みました。
下落の引き金となったのは、前日6日に行われたライブ配信です。中国メディアによると、同社社員が人気キャラクター「ラブブ(Labubu)」などのブラインドボックス商品を手に取り、「価格が割高だ」と自社製品の価格設定に疑問を呈する発言をしたとされています。
同社広報は「状況を調査している」とコメントしていますが、市場ではブランド毀損への懸念が広がりました。同社株は8月下旬の高値から既に約38%下落しており、過熱したブームの持続性に対する不透明さから、利益確定売りが続く展開となっています。
前薗:内部からのネガティブな発言が、既存の市場不安(需要の持続性懸念)と結びつき、株価下落のトリガーとなった典型的な事例です。
株価が下がり始め、転売サイトなどにおけるラブブの価格高騰も落ち着きを見せていた中、最悪のタイミングの発言だったと言えるでしょう。
生放送での不適切替え歌に批判殺到、スポンサー投稿も物議
桑江:11月18日放送のフジテレビ系「めざましテレビ」で、アイドルグループ「timelesz」の篠塚大輝氏が披露した一発ギャグが物議を醸しています。
生放送の最後で、篠塚氏は童謡「大きな古時計」の替え歌で「おじいさんにトドメ」と歌い、拳を振り下ろす素振りを見せました。共演のアナウンサー陣が困惑する様子が放送されると、X上では介護経験者や、故・ジャニー喜多川氏の闘病を想起したファンから「言葉を選んでほしい」「配慮がない」といった批判が殺到しました。
さらに同日の放送直後には、timeleszをCM起用しているAOKIが「失敗は成功のもと」という内容を公式Xに投稿しました。篠塚氏の言動を意識した投稿ではなかったと思われますが、タイミングの悪さから「火に油を注ぐ」形となり、企業としての投稿管理体制を問う声も上がる事態となっています。
前薗:本事案は、未だに影響が尾を引いている状況です。timeleszはさまざまな形で露出が増えているタイミングでしたが、キャンセルカルチャーを引き起こしてしまっているため、篠塚氏やグループに対する批判的な声は今後も続くと考えられます。
テレビ番組に限らず、企業の従業員も同様の批判を招く可能性があります。そうした事態を防ぐには、自らの言動が与える影響を判断できるようなリテラシー教育を行わなければなりません。
また、今回のような問題が発生した直後は、スポンサー企業に注がれる視線がことさら厳しくなりますので、自社の発信内容に問題がないかも併せて押さえておく必要があります。
スシローで再び迷惑行為、「ガリ直食い」を配信
桑江:続いては「客テロ(迷惑行為)」です。
“迷惑系”として知られる男性配信者が、大阪市内のスシロー店舗で迷惑行為を生配信したことが問題となりました。
動画には、男性が備え付けのガリのケースにトングを使わず、自身の箸を直接入れて食べる様子が映っていました。配信中は他の客からも「迷惑配信をしている男がいる」と通報があり、警察が店舗に駆けつける事態となりました。
この迷惑行為は11月3日に行われたもので、スシローの運営会社は、翌11月4日に警察へ相談済みであることを明らかにしました。。2023年の「寿司ペロ」騒動では、スシロー側が約6700万円の損害賠償を請求する訴訟を取り下げ、調停で決着しました。ネット上では、この対応が模倣犯を増長させている可能性を指摘する声も上がっています。
前薗:客テロやバイトテロは、およそ3年周期で起こりやすくなると過去の傾向では言われています。アルバイトの学生が入れ替わることが理由とされ、2026年は一定の警戒が必要になるでしょう。
チョコレート菓子に「歯」混入、賛否渦巻く事態に
桑江:最後は「その他」です。
11月11日、大手菓子メーカーBのチョコレート菓子に人間の歯とみられる異物が混入していたという投稿がXで行われ、拡散されました。
投稿者は大手菓子メーカーBの分析結果も公表しており、そこには「『歯』と推定される」と記されていました。この投稿は4800万回以上表示され、「もう食べられない」「自分の歯では?」など不安や疑念の声が入り混じっています。
これを受け、投稿者の男性は「口腔内にはけがもなく、混入していたのは大きさや形状から見るに乳歯」と、自身の歯ではない旨を主張しました。
大手菓子メーカーBは異物が歯である可能性が高いことについては認めたうえで、製造工程ではマスクの着用やX線検出を徹底し、当該異物もテストでは正しく検知・排出されたことを説明しており、「工程中の混入の可能性は極めて低い」「原因を特定できず苦慮している」と述べています。
前薗:今回のケースでは、企業側が製造工程や検査体制を詳細に公表したことで、「工場での混入は考えにくい」という擁護の声も上がり、議論が割れています。 もし客観的な事実を提示していなければ、一方的に企業が批判されていた恐れもあります。 「原因不明」という結果はすっきりしませんが、それでも自社の正当性を裏付けるデータを毅然と示すことが、結果として自社を守り、世論の冷静な判断を促すことにつながった事例と言えるでしょう。
